【世界陸上2017/男子100m準決勝、決勝】やはり、最後まで主役は「彼」だった・・・

ついに、この日が来た。

陸上100mという競技において、絶対的王者としてほぼ10年間君臨し、短距離王国の名をアメリカから奪取、スポーツ界においても「世界一速い男」として圧倒的なカリスマ性を発揮した、そんな1人の男が、その幕を降ろす。

ウサイン・ボルト選手。

その世界陸上最後の100mレースは、また、多くの人の記憶に残るものとなった。

3組で行われた準決勝は、各組着順上位2名と、各組3位以下の上位2名が決勝に進む。

最終の第3組に登場したボルト選手は、予選全体2位、今季世界ランキング1位の新星、アメリカのコールマン選手に僅差で遅れをとる2番目でゴールラインを通過。

着順で決勝進出を決めたものの、その調子の良さと勢いのままに軽快な走りを見せるコールマン選手とは対照的に、いつも見せる周りを見回しながらの余裕の走りは影を潜めた。
同時に、9秒台を期待された日本の3選手は、それぞれの組で世界との差をまたしても、見せつけられる形となった。

最も決勝進出を期待されたと言ってもいい、サニブラウン選手は、テレビ映像からも見えるほどにスタート直後にバランスを崩し、いつも見せる力強い加速が彼を最前線に押し上げるまでには至らず、夢の決勝の舞台に立つことは叶わなかった。

ただ、そのバランスを崩した理由が、予選と準決勝間でなされた彼のコーチによるフォームの改良という、世界大会、しかも準決勝という舞台ですら、より速くなるための練習台にしてしまう姿勢が生んだとも言える話もあり、日本の短距離界にあって規格外の逸材に、今回の結果以上にこれからの伸びしろをより楽しみに思ってしまった。

そして、迎えた決勝。

その場に役者は揃った。

薬物問題から再度復活し、過去3つの世界大会で常にボルトに後塵をはいしてきた、元世界王者、ガトリン選手。

今季世界ランキング1位、9秒82の自己ベストを今年叩き出し、準決勝ではボルト選手よりも先着したコールマン選手。

あの、ボルト選手がフライング失格という、まさかの結末を見せた世界陸上2011韓国大会でジャマイカの金メダルを守り抜いた、ジャマイカNO.2、9秒69の自己ベストを持つブレイク選手。


そして、現世界王者、世界最速の男、ウサイン・ボルト選手。

短距離王国復権を目論むアメリカとそれを再度阻止したいジャマイカの一騎打ちも見ものだった。

スタート直後、前半が得意なガトリン選手よりも前に出たのは、今ノリに乗っているコールマン選手。

その勢いは決勝の場においても、変わらなかった。スタートのリアクションタイムは決勝出場者中、最速の0.123秒。

しかし、世界最速の男たちが中盤〜後半に牙を剥いた。

そして世界は、最後に、これまでにないほどの華麗な追い上げを1人の男に期待した…まるで筋書きがあるみたいに。

しかし、その彼のために用意された、その歓声がすぐに聞かれることはなかった。


最後のラインを1番最初に通過したのは、元世界王者のガトリン選手だった。

コールマン、ガトリン、ボルトの3人がほぼ同時に飛び込んだように見えたその結果を、電光掲示板で確認し、自分が念願の頂点に舞い戻ったことを知ったガトリン選手は全身で雄叫びをあげ、すぐにボルト選手に向かった。

王者に返り咲いてもなお、現王者の最後の時に敬意を表したように見えた彼に、ボルト選手もハグをして応えていた。

彼は場内を歩きながら見渡し、声援に応えるかのように何度となく手を挙げ、そして、深々とお辞儀をした。

そんな彼に世界は、負けてもなお、彼の功績とこれまでの世界を魅了し続けたパフォーマンスに惜しみない賞賛を送っていた。


大きな歓声は優勝したガトリン選手にではなく、ボルト選手に向けられていた。


やはり、最後まで主役は「ウサイン・ボルト」だった・・・


優勝タイムは、9秒92。

タイムだけ見て「たられば」の話をしたら、多くの選手にチャンスがあったように見えたかもしれないし、ボルト選手がこれまで世界の舞台で見せてきたパフォーマンスを考えたら、そのタイムは勝手ながら、期待していたものとは違うように見えるかもしれない。


しかし、9秒5台、6台を自己ベストに持つ男たちが死力を尽くしたその戦いは、タイムとはまた違う、見応えと盛り上がりが確かにあったと感じる。


そして間違いなく、世界はあの10秒にも満たない戦いに固唾を呑んだ。


タイムという、目に見えるものではない、世界一流レベルの戦いがそこにはあるのではないかと再度感じたひと時でもあった。

あの男がいない、これからの男子100m。

今以上の盛り上がりを見せてくれるのか、次の世界陸上、そして、2020年の東京オリンピック。

寂しがってばかりではいられない。

と言いながら、新たなスターの登場は、レジェンドを過去の人にしてしまうくらいの衝撃的なタイムで…と勝手なことを期待してしまうのは、やはり、レジェンドの存在の大きさを知っているからかもしれない。

今はリレーで再度彼の走りを見られる楽しみで、心をいっぱいにしておきたい。

セカイサイソク100 | 陸上100m走を語るブログ

陸上界の、世界最速を決める競技と言えば、スプリントの花形【100m】。そこにまつわる選手やニュース、ストーリーを紹介するブログです。

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